メイド美容院というものがあるらしい。
つまり、美容師がメイドの恰好をしておるわけだ。そんなキチガイな店があるのか。あるんである。ホームぺージを見つけたのである。近所にあったのである。
気にならない、と言えばウソになる。メイドには興味がないものの、飲み話にはいいネタになる。随分と恥ずかしいが、場合によってはブログのネタにもなろう。
そりゃ三十路過ぎの男がメイドに囲まれ、へら顔をしている図は社会通念的にまずい。この年齢ならば、キャバクラ等で頭カラッポ教養ナシ女と高くてまずい酒を飲み交わしているのが普通なのだ。
グッとくる観点からいえば、「メイド服」に対しては特別な感情もない。メイドとはいわゆる幻想であり、未確認生物であり、非現実的で遠すぎるからだ。
その点からいえば、現実的ながら日常とは無縁であるOL服には欲情してしてしまう(警官服は現実的で縁がありすぎるので、大嫌いだ)。
そして、そもそもおれは硬派で自意識過剰の武道家なので美容院にはいってはならぬし、ましてやメイドなんぞと機会を持ってはダメなのである。こんなん知り合いにバレたら、切腹ものだろう。
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ふと気が付いたら、メイドに囲まれていた。不思議である。
ホームページに「本日ミニスカショートパンツDAY」と書かれてたのが実にまずかった。正気を取り戻す頃には、既におれは店内にいたのだ。
入店した瞬間、しまったと思った。あきらかに場違いなのだ、おれが。
どぎついピンク色の異空間に一瞬頭がくらくらした。何かと思えば、原色系で彩られた二次元アニメキャラのポスターがびっしりと店の壁に張られているのだ。カウンターにはそっち方面と思われる若い男たちがたむろしている。
その中に明らかにあっち方面の長身革ジャンヒゲボウズ色眼鏡おっさんが登場したのだから、場違いすぎる。
とりあえず追い返されなかった。メイドも客も明らかにおびえているのだけど、第一関門は突破である。
こういう店で客と交流を持つべき悩んだが、間が持たずオタクの一人に声をかけてみた。
「よく来るんですか?ここ」
「……たぁっ、たぁたまによよくきまっす」
OK。会話はこれきりで終わったものの、これでおれも同士と認められたに違いない。
一人のメイドがおずおずと一枚の紙を差し出してきた。こころなしか手が震えている。隣のメイドが「あ、すいません、その娘は新人なんです」といったが、その声も弱々しい。ラブレターかと思ったその紙にはこう書かれていた。
『当店は風俗店ではありません。また酒をおびている方、乱暴、暴言など、迷惑行為をされた方は、以降のご入店をおことわりいたします。』
おびえている理由納得。
これ、全ての客に見せているんだろうな。おれだけだったら、へこむぞ。
虎刈り覚悟で髪を切ってもらうことにした。担当のメイドはちゃんとした美容院で経験を積んだらしく、ごく普通の腕前で安心する。
それまでどのメイドもまともに相手してくれなかったのだが、ここでようやくタイマン会話の機会がきた。
「“ご主人さま”は、消費者金融の方ですか?」
「そんなわけねぇだろ。さらって海に沈めんぞ」
と、言いたいのをグッとこらえる。誤解を解いた途端、メイドたちの態度が急に軟化した。その理由も想像できる。
美容院業界の知人に聞いたことがあるが、美容院では多くの場合「お客様特記事項」というものが存在するらしい。お客の趣味や嗜好を記載しておき、今後の担当接客の参考にするのだ。
そして、おれは大体こう書かれる。
『見た目は怖いけど悪人ではありません』
恐らくは、今回もこの情報がメイドたちに出回ったのだろう。
それにしても。
「お客様」ではない。「ご主人さま」であった。
「いらっしゃいませ」ではない。「お帰りなさいませ」である。
「ありがとうございました」でなく、「行ってらっしゃいませ」なのだ。
つまり「ご主人さま、行ってらっしゃいませ」なのであった。
いいじゃないか。これはありだろう。
2000円代と料金も安い。また帰ってくるぜ、多分。
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2009年01月24日 雑文 トラックバック:0 コメント:3